企画・監修者メッセージ
建物は私たちの人生よりずっと長く、何十年、何百年と存在します。
もし、建物を人に喩えてみたら、私たちの眼前に広がる街はどのように映るでしょうか。
大都市では経済を最優先した開発により、美しく年齢を重ねてきた数多くの名建築が次々と解体されています。
外壁の一部が部分的に保存される例もありますが、人に喩えて想像してみると、切ないものを感じざるを得ません。
そしてその跡には、年端もいかない建物が乱立し、落ち着きのない街へと生まれ変わっているのです。
これまで歴史的建造物の保存は、専門家や心ある市民の運動に支えられてきました。
しかし本来は、子どもから大人まで多くの人々がその価値を共有していれば、保存は当然のこととなり、
どう活かしてゆくかを皆で考えることで、街の魅力はより深まることでしょう。
しかし残念ながら日本では、小中高生のほとんどが、建築や都市を学ぶ機会はありません。
また、多くの大人も、歴史的建造物は魅力的だけど専門家ではないからその価値を理解するのは難しいと感じているのではないでしょうか。
「モダン建築クロニクル」は、建物を擬人化(キャラクター化)することで、
日々何気なく通り過ぎている歴史的な美しい建物に目を向けてもらいたいという想いから生まれました。
建物の沿革や建築主と建築家が込めた想いをキャラクターの人格に映し、
築年数を年齢に、身に纏う衣装は建物の内外観や設計思想から着想しています。
アウターには外観を反映させ、インナーはインテリアをモチーフに、
アクセサリーやネクタイなどの装身具は建築装飾などを詳細に観察してデザインしました。
この音声ガイドアプリに導かれて街を歩き、建物を観ると、
建築や都市の新たな魅力に気づく、新鮮な体験がきっと得られると思います。
このアプリによって、より多くの人々が建築や景観に関心を寄せて頂く機会となり、
歴史的文化的に価値ある建築が一つでも多く保存活用され、長く愛されることを願っています。
企画・監修前田 尚武
プロフィール
前田 尚武
一級建築士/学芸員。京都市京セラ美術館企画推進ディレクター。同館開館一周年企画展「モダン建築の京都」を企画。2003年より森美術館に在籍し「建築の日本展」など数々の建築展を企画。2019年度日本建築学会文化賞ほか受賞。